譲渡所得税とは?税率や特例は?

不動産の売却によって利益が出ると所得税が発生します。
今回は所得税の計算方法や特例を確認しましょう。

譲渡所得税の計算方法

譲渡所得

まず、譲渡所得は以下の計算で求めます。

譲渡所得 = 収入金額 - (取得費 + 譲渡費用)

取得費

取得費は以下の計算で求めます

①取得費がわかる場合
(土地建物の購入代金+手数料や設備費、改良費等) - 建物の減価償却費相当額

②取得費がわからない場合または取得費が収入金額の5%よりも少ないとき
収入金額の5%相当額を取得費とすることができる

譲渡費用

次に譲渡費用についてです。譲渡費用とは不動産を売却するためにかかった費用であり、主な費用は下記のとおりです。

  • 仲介手数料
  • 印紙税
  • 建物の解体費用および建物の損失額
  • 借地権の売却にあたって地主の承諾を得るために支払った名義書換料
  • 売買契約締結後に更に有利な条件で売るために支払った違約金
  • 貸家の売却の際、明渡しをしてもらうために賃借人に支払った立退料

※上記のように、譲渡費用とは売るために「直接かかった費用」であり、修繕費や固定資産税等、不動産の維持・管理にかかった費用や売却代金の取立費用などは譲渡費用に該当しません。

参考:国税庁HP「譲渡費用となるもの

所得税の税率

所得税の税率は、売却した不動産の所有期間によって異なります。

長期譲渡所得(所有期間が5年超)

不動産を譲渡した年の1月1日で所有期間が5年を超えている場合は長期譲渡所得となり、税率は20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)です。

ただし、要件に該当する場合は以下のように低い税率が適用されるケースもあります。

  • 優良な住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合

長期譲渡所得の2,000万円以下の部分:14.21%(所得税10%・復興特別所得税0.21%・住民税4%)
長期譲渡所得の2,000万円超の部分:20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)

  • 所有期間が10年超の居住用の土地・家屋を譲渡した場合

長期譲渡所得の6,000万円以下の部分:14.21%(所得税10%・復興特別所得税0.21%・住民税4%)
長期譲渡所得の6,000万円超の部分:20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)

※譲渡した国内の居住用土地・家屋がいずれもその年の1月1日において所有期間が10年超の場合に軽減税率が適用されます

Point
・上記軽減税率の特例は、後述の3,000万円特別控除と重ねて利用できます
よって、長期譲渡所得金額は「長期譲渡所得金額-3,000万円」となります。
・後述の特定居住用財産の買換え特例を利用する場合は本特例は利用不可

短期譲渡所得(所有期間が5年以下)

不動産を売却した年の1月1日で所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、税率は39.63%(所得税30%・復興特別所得税0.63%・住民税9%)です。

なお、国や地方公共団体への譲渡で要件に該当する場合20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)となります。

所得税の特別控除

特定の要件に該当する場合、譲渡所得金額から一定額を控除することができます。

下記に譲渡の種類と特別控除額を記載いたします。

  • 公共事業等のために土地・建物を売却した場合の5,000万円の特別控除
  • マイホームを売却した場合の3,000万円の特別控除
  • 特定土地区画整理事業等のために土地を売却した際の2,000万円の特別控除
  • 特定住宅地造成事業等のために土地を売却した場合の1,500万円の特別控除
  • 平成21・22年に取得した国内の土地を譲渡した場合の1,000万円の特別控除
  • 農地保有の合理化等のために土地を売却した場合の800万円の特別控除
  • 低未利用土地などを売却した際の100万円の特別控除

※各控除額は特例ごとの譲渡益が限度です
※控除額は当年の譲渡益全体を通じて合計5,000万円が限度です
※5,000万円に至るまでの特別控除は上記特例の順番に行います

参考:国税庁HP「譲渡所得の特別控除の種類

3,000万円の特別控除について

居住用の不動産を売却した場合、要件に該当すると3,000万円の特別控除を利用することができます。

居住用とは?

まず初めに「居住用」の意味を把握しておく必要があります。一見すると意味や定義を確認するまでもないように思えますが、軽減措置が係るため税務上は定義やその範囲が細かく決まっております。

租税特別措置法31条の3第2項
(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例)
2 前項に規定する居住用財産とは、次に掲げる家屋又は土地等をいう。
一 当該個人がその居住の用に供している家屋で政令で定めるもののうち国内にあるもの
二 前号に掲げる家屋で当該個人の居住の用に供されなくなつたもの(当該個人の居住の用に供されなくなつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間に譲渡されるものに限る。)
三 前二号に掲げる家屋及び当該家屋の敷地の用に供されている土地等
四 当該個人の第一号に掲げる家屋が災害により滅失した場合において、当該個人が当該家屋を引き続き所有していたとしたならば、その年一月一日において第三十一条第二項に規定する所有期間が十年を超える当該家屋の敷地の用に供されていた土地等(当該災害があつた日から同日以後三年を経過する日の属する年の十二月三十一日までの間に譲渡されるものに限る。)

参考:e-gov法令検索

法令解釈通達 – 租税特別措置法第31条の3
《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》関係
(居住用家屋の範囲)
31の3-2 措置法第31条の3第2項に規定する「その居住の用に供している家屋」とは、その者が生活の拠点として利用している家屋(一時的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等(社会通念に照らしその者と同居することが通常であると認められる配偶者その他の者をいう。以下この項において同じ。)の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する。この場合、この判定に当たっては、次の点に留意する。

(1) 転勤、転地療養等の事情のため、配偶者等と離れ単身で他に起居している場合であっても、当該事情が解消したときは当該配偶者等と起居を共にすることとなると認められるときは、当該配偶者等が居住の用に供している家屋は、その者にとっても、その居住のように供している家屋に該当する。

(注) これにより、その者が、その居住の用に供している家屋を2以上所有することとなる場合には、措置法令第20条の3第2項の規定により、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋のみが、措置法第31条の3第1項の規定の対象となる家屋に該当することに留意する。

(2) 次に掲げるような家屋は、その居住の用に供している家屋には該当しない。

イ 措置法第31条の3第1項の規定の適用を受けるためのみの目的で入居したと認められる家屋、その居住の用に供するための家屋の新築期間中だけの仮住まいである家屋その他一時的な目的で入居したと認められる家屋

(注) 譲渡した家屋に居住していた期間が短期間であっても、当該家屋への入居目的が一時的なものでない場合には、当該家屋は上記に掲げる家屋には該当しない。

ロ 主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で有する家屋

参考:国税庁 – 法令解釈通達
3,000万円特別控除の要件

3,000万円の特別控除を受けるためには下記のような要件があります。

  • 自身が居住している家屋を売却もしくは家屋と併せて敷地や借地権を売却

※居住していない場合は住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却

なお、家屋を解体した場合は以下2点に該当することが必要
(1) 敷地の譲渡契約が、家屋の解体日から1年以内に締結かつ住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却
(2) 家屋の解体から譲渡契約締結日まで、敷地を貸駐車場やその他の用に供していない

  • 売却年の前年及び前々年に本特例又はマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていない
  • 売却年の前年及び前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていない
  • 売却した土地・家屋について、収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を受けていない
  • 家屋が災害によって滅失した場合は、住まなくなった日から3年目の12月31日までに敷地を売却
  • 売主と買主が、親子や夫婦など特別な関係(生計を同一とする親族や内縁関係にある人、特殊な関係のある法人なども含む)でないこと

なお、本特例は次のような家屋には適用されません

  • 本特例を受けることだけを目的に入居したと認められる家屋
  • 居住用家屋を新築する間だけ仮住まいとして利用した家屋、その他一時的な目的で入居したと認められる家屋
  • 別荘などのように趣味や娯楽、保養のために所有する家屋

参考:国税庁HP「マイホームを売ったときの特例

Point
・建物を解体してしまうと要件が厳しくなるので注意しましょう
・建物解体後に敷地を貸駐車場などにしてしまうと居住用不動産と言えなくなってしまいます
・所有期間や居住期間ではなく生活の拠点であったかどうかが関係する

特定居住用財産の買換え特例

自宅を令和5年12月31日までに売却して買い替えた場合、要件に該当すれば納税時期を繰り延べることができます
※税金が減額するわけではありません

特定居住用財産の買換え特例の要件

本特例を適用するためには以下のような要件があります

  • 自身が居住している家屋を売却もしくは家屋と併せて敷地や借地権を売却
    ※居住していない場合は住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却
  • 売却年の前年及び前々年に3,000万円特別控除の特例またはマイホーム売却時の軽減税率の特例またはマイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていない
  • 売却及び買換えたマイホームは日本国内のものであり、売却したマイホームは収用等の場合の特別控除など他の特例を適用しない
  • 売却代金が1億円を超えない

※マイホームと一体利用していた部分を別途分割して売却した場合、マイホーム売却年の前々年から翌々年の5年間にわたって分割し売却した代金が1億円以下であるかどうかで判定します。そのため、場合によっては修正申告書の提出や納税が必要となることもあります

  • 売主の居住期間が10以上かつ売却年の1月1日時点で売却した土地や家屋の所有期間が共に10年超
  • 買換え先の建物の床面積が50㎡以上、買換え先の土地の面積が500㎡以下
  • マイホーム売却年の前年から翌年までの3年間でマイホームを買換える
    ※特定非常災害等一定要件を満たす場合は延長申請可能
  • 買換え先のマイホームには一定期限までに住まいとして利用開始する


買換え先のマイホームを売却年もしくは前年に取得した場合、売却年の翌年12月31日までに住まいとして使用開始する

買換え先のマイホームを売却年の翌年に取得した場合、取得年の翌年12月31日までに住まいとして使用開始する

  • 買換える物件が耐火建築物の中古住宅である場合、取得日以前25年以内に建築されたものもしくは耐震基準を満たすもの
  • 買換える物件が耐火建築物以外の中古住宅である場合、取得日以前25年以内に建築されたものもしくは取得期限までに一定の耐震基準を満たすもの
  • 親子や夫婦等特別な関係の人(生計を同一とする親族・家屋の売却後にその家屋で同居する親族・内縁関係にある者・特殊な関係の法人等も含む)に売却したものでない

参考:国税庁HP「特定のマイホームを買い換えたときの特例

以上、今回は譲渡所得税について解説いたしました。

特例や軽減措置の適用には要件があり、特例によっては併用できるものとできないものもあります。利用できる制度や併用の可否、どの制度ならメリットになるかといったことを管轄の税務署や税理士に確認し、制度を忘れずに利用するようにしましょう!