不動産取引と手付放棄・手付倍返しとは?

手付による解除

不動産取引では、契約締結時に手付金というものを支払うことがあります。この手付金は様々な意味を持ちうるのですが、この手付金により既定の契約解除の事由がなくとも契約を解除することができます。

以下で具体的に説明していきます。

手付金とは?

手付金とは、契約締結時に買主から売主に交付される少額の金銭のことをいいます(557条)。そしてこの手付金は主に4つの種類の性質に分けられます。

・証約手付

これは、契約成立の証拠としての意味を持つ手付。

・解約手付

手付放棄、手付倍返しをすることでその契約を解除しうるという意味を持つ手付。具体的な例については後述しますので、次の見出しをご覧ください。

・損害賠償の予定としての違約手付

債務不履行(売主が建物の引渡し・買主が金銭の支払いの義務を怠っていること)が生じたときの損害賠償責任の賠償額をあらかじめ合意したという意味をもつ手付。

・違約罰としての違約手付

債務不履行が起きた場合に、損害賠償とは別に手付金を没収するという意味の手付。

以上のように、手付には4種類の性質をもつものがあるわけですが、どの種類の意味を持って手付金を支払うことにしたのかは当事者間の合意によります。ですが、手付には常に証約手付としての意味をもっていると解され、また特段の合意の無い限り、解約手付としての意味も持つと解されています。そのため、手付金をもって契約を解除することができるのです。

解約手付の「手付放棄・手付倍返し」とは?

手付放棄とは買主が売主に支払った手付金の返還を求めない代わりに契約を解除することです。また、手付倍返しとは、売主が買主から受け取った手付金の倍額を買主に支払うことで契約を解除することです。いずれも、契約が解除できる事由に当てはまらなくとも、手付放棄・手付倍返しを行うことで契約を一方的に解除することができます。

例えば、当初売主と買主の間で建物を2000万で取引することになったものの、建物引渡し前に3000万で買い取るというという人が現れたとします。その場合、手付金の倍額を買主に支払ったとしてもまだ利益はでるので、3000万で買い取るという人に売却したくなりますよね。そういったときに、手付倍返しが行われます。

逆に、当初売主と買主との間で2000万で取引することになったものの、建物引渡し前に同じ条件の物件で1500万で売り出している物件を見つけたとします。その場合、手付金を放棄したとしても安く同様の物件を入手できるため、1500万の物件を購入したくなりますよね。そういったときに、手付放棄が行われます。

手付放棄・手付倍返しによる解除と制限

手付放棄・手付倍返しをするには、「売主・買主がどちらも契約の履行に着手していない」ことが条件です。たとえば、売主が建物を引渡してしまったり、買主が金銭を支払った場合には手付放棄・手付倍返しによる契約の解除は認められないと考えた方がよいでしょう(557条1項ただし書)。

最大判昭和40年11月24日判決では、履行の着手について次のように述べています。

民法557条1項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すものと解すべき

最大判昭和40年11月24日民集19巻8号2019頁

上記のように、客観的に「契約の履行」とわかる行為や「契約の履行の前提行為」を行ってしまった場合は契約の履行に着手したとみなされるため、注意が必要です。

まとめ

以上、今回は手付金と手付放棄・手付倍返しについて詳しく説明してきました。手付金は売買代金に対し少額が設定されるため、額によっては手付放棄・手付解除をしてでも他者と取引したいという場面が出てくるかもしれません。また、手付金により解除ができてしまうために売買取引に関して不安を抱えている方もいらっしゃるかと思います。そういった際に、今回の記事を参考にしていただけると幸いです。